モドル  イッコモドル

《洋モノ》


「朗読者」 /著者:ベルンハルト・シュリンク/1995/独

    舞台は1960年代半ば。15歳の少年、ミヒャエルは近所に住む36歳のハンナと恋に落ちる。
    ミヒャエルは家族と友達の目を盗み、ハンナのもとに通う。ハンナも、彼を受けいれるが、
    彼女は自分のことはほとんど話してくれなかった。二人は愛欲に溺れるが、そのうちに、
    ハンナはミヒャエルに本を朗読してくれるように頼む。
    二人の時間は濃密に過ぎていくが、やがて、ハンナは何も言わずに姿を消す。
    そして、二人は意外にも法廷で再会することになる。
    彼女の、誰にも言わない秘密とは何だったのか。ミヒャエルはどう受けとめるのか。

    世界的にもベストセラーになっているこの本。
    映画は「イングリッシュ・ペイシェント」のアンソニー・ミンゲラが監督をする予定らしい。
    最初は、15歳と36歳という年の離れた少年と女の恋の物語かと思って読んでいたが、
    それは、プロローグに過ぎず、本当の物語はその先にある。
    姿を消したハンナは、法学生になったミヒャエルと再会することになる。
    彼女自身が裁かれる法廷で。ハンナは戦犯として逮捕されていたのだ。
    ナチスの親衛隊で看守として働いていた過去があり、アウシュビッツでの悲惨な事件の
    罪に問われている。しかし、彼女の秘密はそれだけではなく、更に深い心の闇がある。
    どんなに重い罰を受けようとも、ひたかくしにする彼女の秘密。
    他人から見たら、何だそんなことで・・と思うかもしれない秘密。
    でも、本人にとっては命よりも大事で決して漏らしたくないことなのだ。
    人間の心の深淵を時をかけて描き出す、悲しく美しい物語。



「コーヒーの水」/著者:ラファエル・コンフィアン/1991/仏

    カリブ海に浮かぶ島、フランス領マルティニック。閉鎖的で独特の文化を持っている。
    ある日、一人の少女が海からやってくる。記憶が無く、何処からきたのかさえわからない。
    「コーヒーの水」という名の老婆が彼女に「アンティーリャ」という名前をつけて引き取る。
    彼女がきたことで、島の中は何かが変わってくる。
    アンティーリャは男達を翻弄し、悪魔の子と呼ばれ、しかしそれでも清廉な光を放つ。
    現れた時と同様に、ある日突然彼女は海で死ぬ。
    彼女は何者だったのか。悪魔だったのか、天使だったのか。彼女自身にもわからなかった。

    いわゆるフランス的不条理小説。
    筋らしいものはあるが、ストーリーに一貫性は無い。時間はあちこちに飛び、人物の視点は
    定まらない。しかし、情景は怖いくらいに肌に感じる。
    風の強い島。まばらに立つ家屋。寒いような熱いような日差し。文化の入り乱れる南の島。
    無口で閉鎖的な黒人達。尊敬されてるが仲間はずれの白人。虐げられる他人種。
    そして、アンティーリャの存在感。美しくも不気味な少女。
    異国的宗教色漂う雰囲気のなか、コーヒーの水は怒鳴り、アンティーリャは冷たく世界を見回す。
    はっきり言って読み通すのは苦痛だが、その世界にハマる価値はある。
    自分の見ている世界が揺れて、例え夜遅い地下鉄に乗っていたとしても、
    マルティニック島の太陽を感じ、不思議な色の海辺に立ち、アンティーリャの痛いくらいの
    視線を感じることだろう。自我が薄れる感覚を味わえる。





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