<痴漢遭遇記>



モドル  イッコモドル



私は痴漢によく遭う。
それは私がスタイルがよくってかわいくって美人で見ると触らずにいられないほどの萌え萌えのイイ女だからではない。
痴漢に遭うというのは、美人かブスかは関係ないのだ。スタイルの良し悪しも問題ではない。もちろん人格も全くこれっぽっちも関係ない。
遭わない人は遭わないし、遭う人は遭いまくるものなのだ。
多分、そういうオーラがあるのだろう。痴漢に遭うオーラ。
だから「君は本当に人類なのかい?」と聞いてみたくなる婦女子が
「あたしってぇー、よく痴漢に遭うんだよねー、あれってちょームカじゃねぇ?金払えってかんじぃ。ゲヘヘヘ」とかのたまっていても
「てめーになんぞ誰が触るか!ゴルァァア!!! この地球外生命体めが!!! てめーの家には鏡が無いんかい!!!」なぞ思ってはいけない。
変態を寄せ付けるフェロモンを持って生まれただけなのだ。それは天性のものであって、その火山爆発的ドブスのせいではないのだ。
そして、私もそのハワイ旅行のお土産に貰った「I NY」と書かれたTシャツ程に入らないフェロモンを持っているらしいのだ。
どうせなら金持ち男を惹きつけるフェロモンが欲しかったというのは言うまでもない。

幼い頃から、そういう変態やら痴漢やらに狙われていた私は少々の変態ぶりでは動じない。
一応断っておくが、他人に迷惑をかけない個人的変態趣味ならば、全然構わない。むしろ自分の性癖を自覚してその道を極めるという姿勢はエライと思う。
しかし性犯罪者は許さん。断じて許さん。
私自身が傷害で逮捕されることになろうとも、変態野郎の股間にぶらさがっている下半身脳味噌を切り落としてやるのも辞さない構えだ。
ソヤツを殺してやるほど、私は優しい人間ではない。男子のアイデンティティとも言える下半身脳味噌を失くして地獄の苦しみを味わってのたうちまわるがいい。
だいたい、性犯罪者に対する刑罰は軽すぎる。
「強制わいせつ」で上限懲役6年だと? 「強姦」で上限懲役15年だと? ふざけんな、コラ。
裁判になって、その「上限懲役」とやらを受けるヤツがどれくらいいるんだ? もし受けたとしても模範囚ならばその半分で出てきやがる。
何よりも裁判となると被害者が、克明にどんな被害にあったのか万人の前で言わされるのだ。そんな恥辱に耐えられる者がどれくらいいるのだ。
2005年1月現在、性犯罪に関する法律改正が論議されている。
国やら政治やら法律やらは、何せ時間がかかるので期待はしていない。

というわけで、私は自ら鉄槌を下す。

ある日の夜に、私は地下鉄に乗っていた。平日のそんな時間は当然のごとく満員電車だ。そして当然のごとく痴漢がいるのだ。
人がぎゅうぎゅうに押し込まれている車内なので、本当の痴漢なのか、ただ単にカバンか傘が当たっているだけなのかの判別は難しい。
勘違いをして騒ぎ立てて、冤罪でその男性の社会的立場を危うくするのもよろしくない。
私のケツを触っていると思われる後ろに立っている男を首だけ振り向かせて睨んでみた。まずは小手調べ。
わりと背の高い痩せた大学生風の男だった。しかし、カバンも傘も持っていない。うーん。でも、この背の高さで私のケツに手が届くか?
ちょっとわからなかったので、駅について人々が入れ替わる時を見計らって男から離れてみた。
すると、ソヤツは今度は違う女の子の後ろにぴたりと貼りついた。
あ、コイツ痴漢。間違いない。
ターゲットにされてしまった女の子は満員の電車の中で動けずに、男から少しでも離れようと姿勢を変えようとしている。
許さん。
そう思った私は、人を掻き分けてその大学生風の痴漢男の横に行き、横っ面をグーで殴った。
満員電車だったから、振りかぶることが出来ないので弱めのパンチだったが男は一瞬よろめいた。
さあ、来い!何か言ってみやがれ、この痴漢野郎!
戦闘モード発動。精神病のキチガイ女を舐めんなよ。精神世界の地獄の底辺を見てきた人間の誰にも止められないキレ方を見せてやろうじゃないの。

しかし、男はノーリアクションだった。
あれ〜? 反応なっしんぐ? 女にグーで殴られて、顔色一つ変えないどころか無表情? 身動き一つせず?
周りの人々は、唐突に無言で男を殴った私を異常なモノを見る目で注視している。
ん〜? この状況では私が変質者? まさに意味のわからない行動をするキチガイそのもの?
ヲイヲイヲイ。痴漢男よ、なんか言えよ。「何するんだよ」とか「俺が何したってんだよ」とかなんとか言うことあんでしょ、普通にさ。
次の駅で男は何事も無かったかのように降りていった。
満員電車にも拘らず、私の周りには空間が出来ていた。ああ、快適快適。・・・・って、おい。

しかし、私は負けないわ。いかに社会に理解されなくってもキチガイ扱いされても、悪を懲らしめ孤独に戦う腐女子戦士ぴゃんきっしゅ。

ある日の深夜。それはやはり地下鉄の中で、その日の終電だった。
ガラガラの車内。私は疲れていて、はじっこの席に足を組んで座って眠りこけていた。
ふと目の前に誰か立っている気配がした。寝ている間に混んできたのかと思い、顔をあげた。でもやはりガラガラの車内。
私の目の前に30代半ばかと思われる、よれたスーツをだらしなく着てる男が立っていた。
ズボンのポケットに手を突っ込んで、私を見つめながら完璧にイっちゃってる目をして公開オナニーをしていた。
はあ・・・・やれやれ。あたしゃー疲れているし、あまりの情けないその姿に怒る気力もナイヨ。
私は組んでいた足の、上に乗ってるほうの足をそのまま勢いよく上に振り上げて男の股間を蹴り上げた。これくらいで勘弁してやるよ。
公開オナニー男は、股間を抑えたまま悶絶してその場に倒れこんだ。
邪魔なので、私は座っている場所を変えて再び眠りに落ちた。

日々を生きて、外に働きに出ていれば嫌なこともたくさんある。理不尽なこともいっぱい起こって、世の中が全て敵に思えるときもある。
その日、私はそんな気分であった。
元々、鬱病持ちで凹みやすい性格なのだ。小さなことでクヨクヨしてすぐに落ち込んでしまう弱っちい女の子なのです。はい。
冷たい雨の降る日で、むちゃくちゃ荒んだ気持ちの私は、やはり終電に乗っていた。
もう世界など見たくない。誰の顔も見たくない。みんなみんなダイキライだ。そう思って小さくうずくまって目を閉じていた。
暗黒な想いに沈んでいたのだが、ふとケツの下に異物感を覚えた。
あれ・・・?座ったとき、何かあったかな・・・?
私は目を開けて自分のケツの下を見ようとした。
そこで見たものは中年男が隣に座って、私のケツを撫で回している姿であった。
かなりヤバイ精神状態にあった私は、自分でも予想がつかないくらいに唐突に激烈にキレた。
無意識に持っていた傘で中年男を傘で叩きまくっていた。
中年男は当然逃げた。私は当然追いかけた。
中年男はチビデブで、私は女にしては少し背が高いのでコンパスが違う。
火事場の馬鹿力、とは少し違うけれども普段体力の無い私でも、理性がふっとんでいるものだからすぐに追いついて傘で殴りまくった。
悲鳴をあげて逃げ惑う中年男。無言の無表情で傘が折れてバキバキになっても殴り続ける私。
かなりシュールな光景であったことだろう。

痴漢に遭うのは、もちろん電車だけではない。
水商売をしていた私は、深夜3時などに車も人影もなくなった暗い道を歩いていた。
他の同僚の女の子達は送りの車に乗っていたが、私は比較的近くに住んでいたので歩いて通勤していたのだ。
その道は昼間は人通りも多く、二車線で国道に繋がっているので交通量も多い。
だが、深夜になると人気がなくなり、「痴漢道」と呼ばれるくらいに変質者が多数出現する。
道沿いに「角海老」があるせいだろうか。真相は定かではない。「角海老」を知らない人はググってください。
その日、私は酔ったバカオヤジからチップを、たんまりせしめていたので上機嫌であった。
足取りも軽く歩いていたところ、私を追い抜いていった車がバックして戻ってきた。
あ、痴漢だな。
案の定、車に乗ったまま、ケント・デリカットのような眼鏡をかけた異常な目つきのオヤジが車に乗ったまま話しかけてきた。
「お姉ちゃん、コーヒー飲まない?」
こんな夜中にコーヒー?
「飲まない」 私は足を止めずに歩いたまま返事をした。
「30分でいいからさ。いや、10分でもいい。コーヒー飲まない?」
「このへんに喫茶店なんかないから」
「車で行けば、すぐファミレスあるよ。コーヒー飲まない?」
誰がお前みたいな、いかにも異常な目つきの変質者の車に乗るかっつーの。
オヤジは私の歩調に合わせて車をのろのろ運転しながらも執拗に「コーヒー飲まない?」を繰り返す。
返事をしない私に腹が立ったのか、最初からそのつもりだったのか知らんが、イキナリ車のドアを開けて私を車の中に無理矢理引きずり入れようとした。
私は得意のグーパンチで顔の正面を殴って、ケント・デリカット眼鏡を叩き壊した。
グエっとかなんとか蛙みたいな悲鳴をあげたオヤジに往復ビンタを数回食らわして、最後にヒールでケリを入れた。
「このあたしとコーヒー飲みたきゃ、ココに来な」
薔薇模様の毒々しい自分のホステス名刺を投げ渡して、悠々立ち去る私。
うーん。腐女子戦士ぴゃんきっしゅ、決まったゼ。

しかし、私もいつもいつも暴力でカタをつけているわけではない。
同じく、深夜3時頃に店を終えて家路についていた私にスクーターで追いかけてきた若い男。イケメン風。
メットを脱いで、私のほうに歩いてきた。
また痴漢か。この誰もいない道という状況で若い男はヤバイなあ。さすがに力では負けるしなあ。
必殺瞬発ビンタを食らわしてダッシュで逃げるか。私のこの瞬発ビンタの破壊力はゴリラ並みにスゴイのだ。同年代の男を5メートル吹っ飛ばしたことがある。
私は体力も人の半分以下だし、あり得ないくらい非力だが、瞬発力があるので皆油断して相当なダメージを食らうらしい。
身構えていたところ、イケメン男は意外にも低姿勢で申し訳なさそうに「抜いてくれない?」と言った。
予想もしない言葉に、思わず「ここで?」と聞いてしまう私。
「いや・・・あの・・・ゴメン。今日、彼女にふられてさ・・・なんか無性に抜きたくなって・・・」と照れながら言い訳をするイケメン痴漢。
イケメンだろうがなんだろうが、彼女に振られていようが、なんと言い訳してもそれはセクハラだ。お前は痴漢なのだ。
「そんなことイキナリ言って、やらせてくれると思ってんの?」
「お金は払うから・・・・」
財布を取り出すイケメン痴漢。アホか、おのれは。
「そういう発想するから彼女に振られるんでしょ」
それから延々説教かましてやった。ついでに、彼女に振られた経緯と、その悲しみと悔しさと寂しさをも聞いてやった。何やってんだ、俺。

このように、不本意ながらも変態寄せつけフェロモンを醸し出している私には痴漢ネタはいくらでもある。
でもそろそろ書くのにも飽きてきたので、一番インパクトのあった変態痴漢のネタで終わりにしよう。

冬のある夜、私は近所の友人の家から帰る途中であった。
行く手に、黒い色の車体の低い車が止まっていて、運転席に男が乗っているようだった。
暗いのでよくわからないが、どうも私を見ているようだ。
うーむ。また痴漢かね。
構わず、そのまま通り過ぎようとしたが、男は車から降りてきて呼び止められた。
「あの!お姉さん。僕の女王様になってくださいませんか?」
痴漢慣れしている私も、さすがに目が点になる思いであった。
「女王様って何するの?」
あまりの唐突な意外性に思わず素で質問。
「僕があなたの犬になりますので、調教してくださればいいんです」
「犬? 餌あげたりすればいいのかな」
「いえ、首輪を引っ張って叱ってくださるとか」
犬になりたいマゾヒストなだけあって、言葉遣いも礼儀正しい痴漢である。
「首輪を引っ張られると快感なの?」
「はい。それはもうたまらないです」
そう言ってマゾ痴漢は、自分の車の中から首輪を取り出して装着した。
「引っ張ってください」
私に首輪の鎖を手渡す。ぐいっと引っ張ると、「ああ。もっと強くお願いします」と、すでにマゾ痴漢は恍惚の表情。困ったヤツだ。
「悪いんだけど、あたしもマゾだから女王様にはなれないな」と、丁重にお断りして鎖を返した。
「ああ・・・そうなんですか・・・。残念です。あなたはスタイルもいいし、絶対女王様が似合うのに・・・」
おいおい。私は男物のダボダボのロングコートを着てるんだが。どこを見てスタイルがいいとか思い込んだんだ?妖精でも見えてんのか?
「じゃあ、せめて僕のオナニー写真を見てもらえますか」
またもや、マゾ痴漢は車の中からポラロイド写真を出してきた。
「ホラ。どうですか。僕のオナニー写真」
もうココまでイッっちゃってるとお見事としか言いようがないね。
ニコニコしながら差し出してきた。さすがに触りたくないので覗きこんで見た。
「ボケててよくわかんない」
残念ね。君の女王様を早く見つけてちゃんとしたカメラで撮ってもらいなさいね。



人間とは不思議な生き物だ。
性的行為というのは、ただ子孫を残していくためだけのものなのに
ありあまる欲望と尽きることの無い想像力であり得ない方向に発情する。
痴漢に遭遇するたびに思うのだけど、一回でも性犯罪で犯した人間は性器を切り取ってしまえばいい。
被害者は一生消えない心の傷を負うのだ。それぐらいやるべきなのだ。
アフリカのある地域では、結婚した女性が姦通しないように性器を切り取るそうだ。
それは男という種族にこそするべきことだ。お前らが精子をいくら好きなだけ撒き散らしたとしても、結局子供を産むのは女なのだから。
地上から男がいなくなっても、女はきっと細胞分裂をしてでも人類を残すことであろう。
原始、女は太陽であったのだから。





モドル  イッコモドル