<棺>

私を木の箱に入れて
何もいらないわ
大事な本も お気に入りの音楽も 涙した映画も
ただ 一番好きな黒い服を着せて
真っ赤な薔薇で飾って 埋もれるぐらいにたくさん
誰も来ないで
私は一人 地上の業火に焼かれて
煙になって 灰になって
石の中に閉じ込めなくていいわ
意味の無い言葉もいらない
私は独り何も持たずに旅立つから

泣かないで
私を忘れて
そして許さないでいいの
自分勝手な私を憎んでいいの
いつか 忘れるわ
私は赤い薔薇と共に散っていくから
もう思い出さないで

とても幸せよ
空気の中に溶け込んで 自我など無くなる
苦しみは彼方の空に
悲しみは深い海に
切なさは届かない土の中に
私は自由
手枷足枷首枷も外されて
いつのまにか 白い服を着て
血の色の薔薇は消えてしまう

さあ 私を木の箱に詰めて
解き放って
永遠の中へ




モドル  イッコモドル