モドル イッコモドル
<トイレババァの恐怖>
この項はテキストのみ。写真はナイです。
インドを旅行するにあたっての有益な情報などもないです。
単に小話です。
前項 「怒涛の観光」 最終日。
私ぴゃんきっしゅと相棒ウサギは、アグラから聖地ヴァラナシへ向かう列車に乗るために駅へ向かう。
前々項 「デリー到着!インド騙しの洗礼」 で書いたように怪しい旅行会社でツアーを組んで列車の手配まで頼んだ私達。
列車の切符はアグラのホテルで渡されるということだったが、ホテルのフロントの人に「そんなこと知らない」と当然のように言われた。
きたよ・・・・ココでまたバトル勃発か?と思った。
しかし、ドライバーのシンおじさんは 「いいから出発するぞ」 と言う。
ん?まさかこれから駅で取るとか言わないだろうな。
なんと言って英語で 「最初の約束と違うんだよ、シンおじさんよ」 と説明すればいいのか、二人で思案。
シンおじさんは英語の通じない私達には、余計な説明は一切せずに近くのホテルらしきところに車を止めて
「ちょっと待ってろ」 と言い残して消えた。
え?え?何?どういうこと?
しばらくすると、ホテルから出てきたシンおじさんは私達に列車のチケットを渡した。
あれ・・・・・あるんじゃん・・・・・。なーんだ。心配しちゃったよー。アハハ。最初からそう言ってよー。アハハハハハ。
・・・・・・・・・って、あれ?
よくよくチケットを見ると、ヴァラナシ駅に向かう列車には違いないが、出発駅がアグラではない。
つ、つ、つん・・・・ど・・・ら?ツンドラ、と読める。
ツンドラ?何ソレ?北欧のツンドラ地帯か?寒いのか?針葉樹でもあるのか?
「ツンドラってどこ!?」 (ねこぢるファンにはわかるセリフ。ぢるぢる旅行記とまさに同じ状況)
「ココ、アグラから30キロ程行ったとこだ」 とシンおじさん。
・・・・・・・・・・・・・・
なんで、わざわざそんな切符を取ってくれやがったのか理解出来ない・・・・・。
騙しの旅行会社は、ちゃんと約束どおり仕事をしてくれてるわけだが、何処かズレている。
最初の約束どおり、私達専用ドライバーのシンおじさんは何でも言うこと聞いてくれたし、ホテルも中級以上のホテルだったし朝食もついていた。
昼食、夕飯、各地での入館料以外の金は一切払わなくてよかった。
だが、ホテルは中心街から離れていて歩いて何処かに夕飯食べに行くのは不可能だったし、列車のチケットは取れているのか不安にさせられ、挙句の果てにはアグラから30キロも離れている駅から乗らなければならない。
インド人のセオリーだ。仕事はちゃんとするが、何処かズレている。ツアー代金が手数料というには高すぎたのは言うまでもない。
でも、まあいっか。
とにかくヴァラナシには行けるのだ。それでいいじゃないか。ココで放り出されるより何百倍もマシだよ。
というわけで、アグラ観光を終えた私達は、そのツンドラ駅とやらに向かった。
この寡黙で静かな優しさを持ったシンおじさんとも、そこでお別れ。
ねこぢる氏が漫画で描いていたような感じではなく、とても活気のある町だった。
駅もインドの駅らしく、ボロっちくて人がわんさかいる。
インドでは大きな駅には、必ずレディスルームというのがあって、女性しか入れない待合室があるものだが、さすがにそれはなかった。
仕方ないので、怪しげなインド人が盛りだくさんいる広い吹きっさらしのかろうじて屋根のある待合室で5時間、列車を待つこととなった。
シンおじさんが、女子トイレに近いベンチを確保してくれて、私とウサギにいろいろ注意をした。
一つ。荷物から絶対手を離すな。
一つ。一人が寝ても一人は起きていろ。
一つ。トイレは交代で行け。
一つ。列車が来る1時間前にはホームへ行け。
一つ。おかしなヤツに話しかけられても返事をするな。
一つ。困ったことがあったら、駅員を呼べ。
わかったか? You understand?
「わかった。理解した。了解だ。今までありがとう。楽しかった。 Thank you
for your kindness!!!」
シンおじさんと最後に写真を撮りたかったが、準軍事国のインドでは駅では撮影禁止。
ウサギは取っておいた、最後の日本煙草のセブンスターを、私は「祭」と書かれた手ぬぐいを、シンおじさんに感謝のしるしとしてプレゼントした。
もちろん、そっとチップもしのばせて。
シンおじさんは心底嬉しそうに受け取ってくれた。
そして、名残惜しそうにしながら去って行った。
サヨウナラ!シンおじさん!このテキストには書いてない数々の事件もあったが、シンおじさんのおかげで切り抜けたこともいっぱいあった。忘れないよ!楽しかったよー!!
久しぶりに二人だけになった。
ここからようやっと、いつもの貧乏旅だ。
二人だけで頼るものなど何もない。
自分を守るのは自分しかいない。さあ、気を引き締めていくゼ!
ココはインドだ。
日本人には理解出来ない好奇心を持った人々がひしめいている。
ツンドラ駅は田舎の駅。外国人などいるわけもなく。
案の定、珍獣状態の私とウサギは大勢のインド人に取り囲まれて、お互い拙い英語でわいわい楽しく遊んでいた。
そんな人々も、列車が到着するたびにいなくなっていく。
私達の乗る列車は23時半発。
シンおじさんの言うとおりに、22時半にはホームへ移動するつもりだった。
駅の待合室は、毛布にくるまって寝ている人々が山盛りになってきた。
インドとはいえ、今は冬。夜もふけてくるとかなり寒い。
私とウサギも持ってるだけの服を重ね着して、寒さをしのぐ。
しかし。
しかし・・・・・・・・・・・。
トイレに行きたい。
ずっと思っていたのだが、口には出さずにいた。
それは、トイレが汚いからではない。そんなこと気にしていたらインドにはいられない。そうじゃないんだ。それぐらいの覚悟はある。そこではない。
私達はトイレの斜め前5mぐらいの位置のベンチに座っていた。
ウサギはそっちに背を向けて自分のリュックにもたれていた。
私はトイレ方向を向いてリュックにもたれていた。
だから、ずっとソヤツを観察していたのだ。
そう。トイレババァだ。
ヤツはトイレのまん前に毛布にくるまって寝転がっている。
最初は列車待ちの人かと思ったが、どうやらソコにお住まいになっているようなのだ。
要するにホームレス。要するに乞食の方。
目を瞑って寝てるかと思いきや、その女子トイレに入る人がいると、唐突にムクッと起き上がって金をせびるのだ。
それも尋常なせびり方ではない。
普通、インドの乞食の方々は憐れそうな目つきで手を出して 「バクシージ、バクシージ・・・」 と一応弱ぶって請求するものだ。
それが、「ゴルアァァァア!!!! トイレに入るんだったら、このワシに金払ってから通らんかい!!! ココはワシの場所じゃぁぁぁああ!!!!」 という勢いなのだ。
いや、コワイから。マジコワイから。
迫力ありすぎというか、鬼気迫るというか。お前がトイレを掃除でもしてるのかと問いたい。しているようには、とても見えない。
他のインド人女性などは、「誰がてめぇに金なんか払うか!」 という感じで怒鳴ってる人もいるが、素直に払っている人もいる。
インド人男性が自分の娘を連れて入ろうとしたら、「男なんかが、ワシの場所に近づくんじゃねぇぇぇええ!!!!」 とばかりに追い払っている。
えぇー・・・・・・。子供が女の子じゃん・・・・・。
そんな様子をずっと見ていた私は、怖くてトイレに行けない。
でも・・・・でも・・・・おしっこしたいんですけど・・・・。
いや、素直に金を払えば黙って通してくれるに違いない。
しかし、いくらぐらい払うものなのだ? チップの習慣の無い日本人女子のぴゃんにはわからない。
じっと観察してると、どうも払っている少人数の人はコインを渡しているようだ。
ということは、1か2ルピー。大きくても5ルピー。
うーん・・・・実はコインをあまり持ってないのだ。10ルピー札しかない。
しかも、列車の中でチャイやらコーヒーやらお菓子やら食べ物を売りに来た場合、小銭は絶対必要。4ルピーのチャイに10ルピー札を渡してもお釣りなんかくれるはずもないのだ。
貴重なコインを渡すのはダメだ。
しかも、寝てるだけで仕事もしてないコワイトイレババァに10ルピーも渡したくない。10ルピー札だって、そんなに多く持っているわけじゃないのだ。
まさか、乞食の人に100ルピー渡して 「お釣りください」 とはとても言えない。
どうしたものか・・・・。
小心者のぴゃんきっしゅは悩んでいた。
ツンドラ駅に着いたときは、5時間も待つのかぁ、と思ったが、あっという間に時は過ぎて、悩んでいるうちに21時半くらいになってしまった。
ヤバシ。そろそろホームに移動しなくてはならない時間が迫ってきた。
このまま我慢して、列車のトイレに入るか。
いや、インドの列車はひどく揺れるし、ココのトイレよりも更に地獄のありさまなのは知っている。
うーん。うーん。どうしたらいいんだ!?あああああああ。
と、ぴゃんきっしゅが悩み倒しているうちにウサギが 「そろそろ移動時間だね。寒いからスパッツも穿きたいし、トイレ行っておこうかなぁ」 と言った。
「えー・・・・・」 と、ぴゃんが困った顔をして言いよどむと、「何?どうかした?」 とウサギが聞く。
私はトイレババァの存在を説明した。
こんな田舎の駅に、日本語がわかる人間がいるわけもないので、ひそひそ話す必要がないのが便利だ。
ウサギは、それを聞いてしばらくトイレババァを観察していた。
「ああ。ホントだ。ちとコワイね。でも無視すればよくない?」
「そらそうだけど!アレ、無視出来る!?黙って立ち去ろうとすると足掴まれるんだよ!」
何時間もトイレババァを観察してたぴゃんは怯えきっていた。
ウサギは更にしばらくトイレババァを見ていた。
「ねえ、あのおばさんさ、自分の敷いた毛布の上から絶対出ないよ。払わない人がいても文句言ってるだけで、自分の領地から出ない決まりになってんだよ」
「領地!?」
言われてみればそうだった。払わない人の後を追ったりはしていない。罵声を浴びせているだけだ。
そ、それだったら大丈夫かな・・・・? でも、微妙に私達のいるベンチが近いのが気になるんだけど。
躊躇しているぴゃんきっしゅに呆れて、「んじゃ、あたし先にトイレ行くよ」 とウサギは先陣をきった。
「え?ええ!? い、行くの!?」
ウサギはさっさとトイレに向かう。
案の定、トイレババァは寝ていたのにムクッ起き上がってウサギに何か怒鳴った。
「トイレに入るんなら、ワシに金払え!この日本人めが!外国人プライスじゃぁぁぁぁああ!!!!」 とかそんな感じ。
どひー。こえー。と、思ったがウサギは気にする様子も無くトイレに入っていった。
出てきたときも、トイレババァが更に何か怒鳴っていたが完全無視。足を掴まれそうになるところを、ヒラリとよけて普通の顔で戻ってきた。
ウサギ、強し。
「トイレね、一番奥が比較的キレイかもしんない」
感想はそれだけかーい!! その前に大難関があっただろーが!!!
「ぴゃんは気にしすぎ。無視すればいいじゃん。それとも金払う?」
嫌。絶対嫌。こんなコワイ思いさせられて、なんで金まで払わなきゃいけないんだよ。そんな金あったら体の不自由な人か子供の物乞いにお金あげたいもん。
そんなふうに、やいやい言って嫌なことを引き伸ばしているうちに、時間はもう22時半に近くなった。
「ぴゃん、トイレ行かないならもうホームに移動するよ。どうするの?」
と、ウサギはニヤニヤ半笑い。くっそー。
散々の逡巡の末。ぴゃん吉突撃いたします!!
ハイ。マスクして〜。夜だけどサングラスして〜。顔を隠してしまえばコワイものなど何もない!
ボク、何も見えません。ボク、何も聞こえません。
トイレババァが何か叫んでいたが、ヒンディー語なので何言ってるのかはわからない。
しかし、もし言葉がわかっていたとしても何を言ってるのかはわからなかったに違いない。よく酔っ払いとか年齢のいったホームレスの日本語がわからないように。
トイレの中は駅のトイレにしてはキレイなほうだった。水びたしなのには参ったが。
無事、トイレの用事を済ませて大難関のババァの前を通るのか・・・・と思いきや。
!? あれ!? 洗面台がない!? 何処で手を洗えばいいの!? まさか手洗わないの!? うそーん!!!
トイレから急いで出ながら、私はウサギに向かって叫んでいた。
「ねえ!! ウサギ!! 洗面台がないよ!! 何処で手を洗えばいいんだよ!!」
あわあわしていたので、思わずトイレババァの存在を忘れてしまったのだ。
ウサギに歩み寄る足を、ガッツと掴まれてしまった。
思わず、コケそうになったが洗面台のないショックのほうがデカかった。
ぶっといぴゃんの足をババァの小さい手が掴みきれるはずもなく、そのまま歩いていってしまうと罵声を浴びせつつもトイレババァは、やはり自分の領地の毛布から出てこなかった。
ウサギはギャハハーと笑いながら、ウェットティッシュをくれた。洗面台などという親切なものはインドにはないのだ。手、洗わねぇのかYO!今更だが。
という小話 「トイレババァの恐怖」 でした。
日本に帰ってから思い出すと、10ルピーくらい払ってやれよ、という感じなのだが (10ルピー=25円くらい)
そういう問題ではない。インドでは外国人が物乞いに金をあげると、際限なく数限りない物乞いにたかられるのだ。日本人=金持ちという図式もいつまで経っても崩れない。
てかね。マジでコワイんだって。いや、マジでマジで。
次項 「ガンジス河で神を見る」 は、ほとんどテキスト無しで写真満載、重くてしょうがねーよ!というものになる予定。
お楽しみに〜。
モドル イッコモドル